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鋳造工場における材料仕入の最適化

関西ものづくり支援パートナーズ

~相場変動リスクを抑え、在庫適正化で利益体質へ~

こんにちは、ものづくり支援パートナーズの大音です。

鋳造業における収益性の鍵は、材料の仕入と在庫管理にあります。特に銀や錫といった貴金属を扱う現場では、その価格変動の大きさが経営に直接影響を及ぼします。本稿では、ある鋳造工場(以下、A社)における仕入最適化の取り組みと、今後の展望について解説します。


■ A社の事業背景と課題

A社は、銀・錫などの貴金属を用いた鋳造を手がける専門工場です。これらの金属は国際的な相場によって価格が日々変動するため、仕入のタイミングと在庫管理が経営成績を大きく左右します。

<課題1:価格変動リスクと在庫過多>

相場が上がれば在庫の評価益が出る反面、下がればその分の損失を被るリスクがあります。特に過剰な材料在庫は、相場下落時に大きな損失を生むリスクを孕んでいます。よって、余剰在庫を持たないことが経営の安定性向上に直結します。

<課題2:属人的な仕入れ判断>

仕入担当者の「勘」に頼った発注が行われており、「今が安い」と感じたタイミングで大量発注する傾向がありました。これが在庫の変動を助長し、経営判断を難しくしていたのです。

<課題3:棚卸差異による経営の不透明化>

棚卸資産の評価差異により、損益計算が大きくブレる状況も発生していました。正確な棚卸を怠ると、正しい経営状況を把握することができず、投資判断や資金繰りにも影響を与えかねません。


■ 在庫適正化のための実践ポイント

A社では、以下のような改善施策を実施することで、材料費の安定化と在庫の適正化を図っています。

1. 正確な棚卸の徹底

棚卸の精度を高めることで、在庫実績と帳簿残高の乖離を解消。損益を正確に把握できるようになり、経営判断が行いやすくなりました。

2. 受注予測に基づく発注上限の設定

過去の受注実績をもとに、最小在庫量を見極めました。最小在庫量を基準に毎月、定量発注し、足りない分はスポットで当用買い。これにより、相場に左右されず、安定して割安の単価で仕入することが可能となりました。

  • 受注重量
  • 加工重量
  • 出荷重量
    これらを常時把握する体制を構築し、過去データに基づく需要予測を精度高く実施しています。

3. 顧客情報の積極的収集

顧客からの発注予定や内示情報を早期に入手し、見込生産と仕入量の整合性をとる工夫も重要です。営業・生産・調達の情報連携が欠かせません。


■ 材料費削減のための追加施策

さらに、仕入コストそのものを下げる工夫として以下の点も有効です。

  • 現金一括購入による価格交渉
  • 仕入先を一本化せず、複数ルートを確保することで調達リスクを軽減
  • 常に複数の材料商社のルートを調査・開拓

■ 鋳造現場特有の課題とその対応

鋳造現場では、「不良品は溶かして再利用すればよい」という意識が根強く、不良率に対する感度が鈍りがちです。
しかし、不良が発生すれば、その分の手直しややり直しなど追加の作業が発生し、大きなコストがかかってしまいます。

今後は、不良率を数値化し、製造工程の改善に取り組むことで、生産性向上と収益性の両立が求められます。


■ 次なるステップ:データとAIの活用

A社では、さらなる在庫最適化のステップとして、在庫管理システムの導入を検討中です。その先には、AIを活用した高度な需要予測の実装を見据えています。

◆ 教師なし深層学習の活用

「正解ラベルのないデータ」をもとにAIがパターンや構造を自動で学習。受注傾向や相場の動きなど、複雑なデータを統合し、需要を予測する仕組みです。

◆ 強化学習による最適判断

「報酬最大化」を学ぶAIモデルを活用。例えば、

  • 需要予測が的中 → +10点
  • 在庫切れによる販売ロス → −20点
  • 過剰在庫による保管コスト → −5点
    といった評価基準を与えることで、AIがより良い判断を自律的に学習していきます。

■ まとめ

鋳造業の材料仕入れは、単なる調達業務にとどまらず、経営そのものに直結する戦略的領域です。
属人的な判断から脱却し、正確な在庫管理とデータに基づく需給予測を導入することは、収益性の改善に直結します。

今後はAIを活用した予測精度の向上と、業務の自動化・効率化によって、変化の激しい市場環境においても「材料の過不足を極限まで少なくした精度の高い仕入」を実現できる体制づくりが重要になるでしょう。

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