こんにちは、ものづくり支援パートナーの大音です。今回は、M&Aについての話題です。
1. M&A=仲介会社、という常識を疑う
中小企業が事業承継や会社売却を検討する際、多くの経営者がまず思い浮かべるのは「M&A仲介会社への相談」ではないでしょうか。
確かに、買い手探しや条件交渉を一手に担ってくれる存在として便利に見えます。
しかし近年、仲介を介さないM&A、つまり「マッチングサイト+専門家(弁護士・会計士)」による直接交渉型の進め方が注目を集めています。
その背景には、仲介という仕組みが持つ構造的な課題があるのです。
2. 仲介に潜む“利益相反”というリスク
中小企業庁が2021年に発表した資料『中小企業におけるM&A支援機関に対する信頼感醸成(補足資料③)』では、
M&A仲介業者が抱える「利益相反リスク」が明確に指摘されています。
仲介会社の多くは、売り手と買い手の双方から報酬を受け取る“両手仲介”という方式を採用しています。
この構造では、
- 売り手が「高く売りたい」
- 買い手が「安く買いたい」
という利害の対立の中で、仲介者がどちらの利益を優先するのかが不明確になります。
中小企業庁の資料では、特に交渉や契約の段階では弁護士の関与が望ましいとされ、
「中立性と透明性を保つ体制を整えることが重要」と明記されています。
3. アメリカでは「登録・開示・同意」が当たり前
同資料によると、アメリカでは仲介行為自体は合法ですが、Broker(仲介者)は証券取引委員会(SEC)への登録と、金融業自主規制機構(FINRA)への加盟が義務付けられています。
また、仲介を行う際には、
「自分が仲介者であること」を売り手・買い手双方に書面で開示し、双方の書面同意を得る必要がある
とされています。
つまり、仲介を行うこと自体を“透明化”し、当事者が納得した上で進めるのがアメリカ型のM&Aです。
日本ではまだ同様のルールが整備されておらず、制度的にも中立性を保つ仕組みが十分とはいえません。
そのため、自ら交渉を主導できる形でM&Aを進める意識がより重要になっています。
4. マッチングサイト+弁護士という現実的な選択肢
では、仲介を介さずにどうやって買い手を探し、契約をまとめるのか。
その答えが、**「マッチングサイト+弁護士」**という新しいスタイルです。
マッチングサイトの活用
近年、BATONZやTRANBIなど、M&Aマッチングサイトの活用実績が増加しています。
これらのサイトでは、中小企業が匿名で売却情報を掲載し、買い手候補から直接アプローチを受けることができます。
登録費用や掲載料が無料のケースも多く、仲介手数料を大幅に抑えられるのが大きなメリットです。
弁護士・専門家のサポート
交渉や契約の段階では、弁護士による法的サポートを受けることで、
秘密保持契約(NDA)や基本合意書、最終契約書の内容を法的に明確で公平な形に整えることができます。
また、相手企業の財務状況や事業内容の詳細な分析が必要な場合には、
公認会計士や中小企業診断士にデューデリジェンス(財務・事業調査)を依頼することも検討の価値があります。
専門家の視点を取り入れることで、取引の妥当性や将来リスクをより正確に判断することができます。
5. 仲介に“依存しない”という選択肢
仲介会社を一概に否定するものではありません。
豊富なネットワークを活かして理想的な相手を見つけてくれるケースもあります。
しかし、これからのM&Aは「すべてお任せ」ではなく、
- 自分で買い手候補を比較する
- 契約内容を理解して判断する
という“自立的な意思決定”が求められます。
マッチングサイトと専門家(弁護士・会計士・診断士)を組み合わせれば、
過度に仲介へ依存せず、経営者自身が納得できるM&Aを進めることができます。
6. まとめ ― 「自立型M&A」が次のスタンダードに
- 仲介は便利だが、利益相反という構造的なリスクを持つ
- 中小企業庁も、交渉・契約段階での専門家関与を推奨
- アメリカでは登録・開示・同意により透明性を確保
- 日本でも、マッチングサイトの活用実績が増加し、弁護士や会計士を併用する自立型M&Aが広まりつつある
- 経営者自身が主導する「透明で公平なM&A」こそ、これからの時代の形
【参考資料】
中小企業庁『中小企業におけるM&A支援機関に対する信頼感醸成(令和3年3月15日)補足資料③』
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/shigenshuyaku/2021/210315shigenshuyaku01_3.pdf
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