みなさん、こんにちは。ものづくり支援パートナーズの上村です。
多くの中小企業の製造業では朝礼をされているかと思います。
しかしその朝礼は機能しているか今一度考えてみてください。
1.朝礼は今、組織づくりの重要な“教育の場”になっている
製造業における朝礼では主に以下のようなことをされているかと思います。
・その日の生産数や稼働状況の報告
・伝達事項の共有
・安全、品質に関する共有
・服装チェック
・安全唱和
・ラジオ体操
いずれも安全や品質、生産性向上においては重要な内容です。
しかし形骸化していたり、前例踏襲で惰性でおこなっていませんか?
朝礼をより効果的にすることで安全、品質、生産性のみならず、社員のモチベーションや企業理念の理解などの向上にも寄与することが可能です。
朝礼は今や、単なる業務報告のためのものではなく、成長の機会、チームビルディング、風土の醸成にも活用されています。
実際、朝礼を「成長の機会」「チームビルディング」「風土づくりの場」として再設計している企業では、社員の主体性やモチベーション、理念理解の深まりといった変化が確実に現れています。
そしてその変化は現場の生産性向上、売上や利益の向上に結び付いてきます。
様々な企業の朝礼を見てきた中で参考となる事例を具体的に紹介させていただきます。
2.週1の全体朝礼 × 毎日の部門朝礼で役割を分ける
とある40名ほどの従業員の金属加工業の会社では全体朝礼を週に1回おこなっています。後述しますが、全体朝礼では主に理念について深める時間、社員間のコミュニケーション、社員の発表スキル向上などを主に行っています。そして部門別朝礼や工程別の朝礼では業務的な確認、安全・品質に関する確認などを行います。
3.理念浸透への活用
まず冒頭に企業理念と行動指針を唱和します。例えばとある企業の経営理念の一文で「提案型の製造で加工の常識を変える」という言葉があります。それを唱和して終わりではなく、2人1組のペアか複数人のペアになって「この言葉を実践するというのはどういうことか?」「この言葉を意識して今日どういう事をするか?」「この言葉を実践できた最近のエピソードは?」といったテーマで1人2分ほどでグループで共有します。そうする事によって理念に対する理解度が向上し、絵にかいた餅、額縁に飾られただけの標語になるのではなく、理念が生きた言葉になり、また従業員にとって共通理解が深まり、方向性も揃ってきます。
4.朝礼用の冊子を活用した思考力、発表力の教育
その後に「月間朝礼」「13の徳目」といった朝礼に活用される冊子を活用して発表と対話を行います。月間朝礼は見開き半頁の1日1話記事が書かれています。テーマとしては「自立」「成長」「思いやり」といった内容が書かれています。それを皆で読み、感じたことを共有します。13の徳目とは、挨拶、笑顔、言葉遣い、親切、約束、責任、前向き、尊重、努力、誠実、自律、健康、感謝のことでアメリカの政治家、ベンジャミンフランクリンが、仕事ができ立派な人間になるために提唱した項目ですが、それを中小企業の朝礼用にアレンジした冊子です。こちらは記入するフォーマットになっており、また日々の仕事に対して考えるような問いも用意されています。そして自分の考えや振り返りを記入する欄もあり、記入をした上で対話をすることができます。
このような冊子を使って対話をすることで、仕事のみならず、人間力も高めることができ、また考える力も養われます。そしてお互いに言葉にして伝えることで、伝える発表力、そして聴く傾聴力も養うことができます。
5.発表が苦手な方へ対応
製造業の職人気質の方が多く、人前で発表をすることを嫌う人もおられます。発表力や傾聴力は不要と感じている人もいるかと思います。伝える力は部下の育成に重要ですし、考える力も改善力には必要です。そのような必要性をトップが本当に重要だと理解して伝えていくこと、そしてトップ本人が実践することが重要です。
また中々、発表や言語化するベテランの職人さんや、若手社員に対しては実践されたこと、少しでも成長した部分などをしっかりと観て承認していくことも重要です。そのようにしっかりと評価してもらえている。自分も成長していると感じることによって本人の意識も高まり、その必要性も腹落ちすることができます。
6.安全・品質に対する対話の取り組み
こちらも単に安全唱和をするだけでなく、実際の事例や現場の写真等を使ってKY(危険予知)のケーススタディをすることでより実践的な取組になります。こちらも近くの人たちと4~5人のグループになって対話をしながら危険箇所を話をしていきます。大勢で話をすると発言しない人が出てきますが、小グループになることで主体性も生まれますし、また複数で意見を出し合いながら考えることで自分にはない考えも共有でき、相乗効果が生まれます。
もう少し簡単なステップですと5Sに関する教材や書籍を毎日輪読で1人ずつ読んでいくという取組をされている企業もあります。人はすぐに忘れていく生き物です。毎日続けることによって長期記憶に残るという効果もあります。
まずはこういった簡単なステップから導入していくと良いでしょう。
7.全体発表はレベル感に合わせで段階的に
前述の理念についての対話、冊子を使った対話、KYのケーススタディ、こちらについて全体で数組共有する時間もとります。そうする事によって部分的な知識が全体の共有知になります。ただし全体で発表することを嫌う・苦手な人もいますので、ランダムに当てるのではなく、事前に指名しておく、もしくは自薦で話をしてもらうというように話がしやすい状況、話をしてもいいという人が発言できるような気配りをしておくと良いでしょう。
ただし、本質的には「人材育成の場」ともしていきたいので、段階的には若手社員や普段発表が苦手な人にも発表をしてもらうようにしていく必要があります。各グループで事前に「今日は●●さんが発表してみようか」と声掛けをしておく事や、リーダ―クラスの方が要約の手伝いをしてあげるなどが考えられます。また聴く側の姿勢や事前のグラウンドルール等でも発表しやすい雰囲気を作ることもできます。とある企業では発表時にはみんな発表者の方に身体ごと傾けて興味深く聞くことを徹底しています。また注目されると緊張するので聴く側も笑顔で聴くこと、発表の後には拍手をすることなどをグラウンドルールとして先に話をしておきます。
また発表後に、その発表内容について触れてあげたり、良いフィードバックをしてあげることで本人達が発表して意味があったと感じたり、「発表が悪くなかったんだ。」と肯定的にとらえることができます。
8.目的意識を持ったラジオ体操
ラジオ体操も毎日のルーティン的に儀式的にするのではなく、しっかりとその目的や効果を意識して行わないと意味がありません。その目的をきちんと会社側からも伝えておくことでより効果的になります。その目的とは怪我の予防、筋肉の活性化、朝の眠気やダルさからの切り替え、現場の一体感の醸成などがあります。これらを意識してすることをしっかりと推奨します。
またある企業ではラジオ体操ではなく、呼吸法や伸びだけに特化した運動をしたりとその目的と効果を意識した内容にカスタマイズをされたりしています。
9.全体朝礼の頻度や時間
ここで興味を持たれるのは通常、こういった朝礼はどれくらいしているのか?ということです。サービス業の会社様では毎日30分ほどされている会社もあります。ようはこのような時間を「消費・浪費」と考えるのか「投資」と考えるかの組織の違いもあるかと思います。必要で効果があると感じられたら長くしていただいても良いでしょうし、メンバーの理解度や意識がまだ追い付いていないという事であれば段階的にすれば良いでしょう。
理想としてはこのような人材育成型の朝礼は週1回、15分~30分ほどで行うと良いかと思います。
例えば次のようなタイムスケジュールです。
- 進行役の挨拶・理念の唱和:3分
- 理念の1項目について対話:6分(1分半×3人+余裕時間)
- 全体共有:2分
- 朝礼冊子の対話:6分
- 全体共有:2分
- (隔月などオプション):KY活動:8分
- (隔月などオプション):全体共有:2分
朝礼冊子の対話の代わりに隔月でKY活動をしても良いでしょうし、隔月でどちらかを追加するという方法でも良いかと思います。このように自組織にあった方法を模索しながら進めていくと良いでしょう。
9.朝礼を改善し続けるための仕組み
このような様々な取組が生まれ、改善させていく仕組みとしては委員会やプロジェクトといった横断的な組織を立ち上げて、そこで常に改善を考えるということをされています。また会社見学ツアーを開催して自社に他社の方に見学にきてもらうということも有効です。自社の朝礼の取り組みを見ていただくことによって良いフィードバックや感想をもらえると「自分達のしていることはすごい事なんだ」と従業員のモチベーション向上にもつながりますし、自社だけでは盲目的に正しいと思っていることも他社からの意見をいただくことで改善もすることができます。
朝礼を極めていくことで、安全、品質、生産性向上のみならず人材育成、そして組織風土の醸成になると冒頭でお伝えしました。そして極めていくと「朝礼」自身も会社としての「顔」となり、プロモーション効果にもなります。
10.研修や会議ではなく、朝礼でする意味
ここで、もう1つの疑問もわいてきている人もいるかもしれません。
「朝礼でする意味があるのか?研修や別途全体ミーティングなどを設ければ良いのでは?」
しかし、多くの中小企業では、そもそも研修制度が十分に整っていないのが現実です。
研修は「特別な時間」になりやすく、時間的・心理的ハードルも高くなります。
その点、朝礼はすでに存在する日常の習慣です。
そこに教育要素を少しずつ組み込むことで、学びを日常化することができます。
短時間でも、毎週・毎日触れる。
この積み重ねこそが、人を育て、現場を変えていきます。
11.最後に
自社の朝礼はいま、どのような状態でしょうか?
安全・品質・生産という“現場の三種の神器”に課題がある企業はもちろん、
「人材育成が進まない」「若手が育たない」「社内のコミュニケーションが弱い」「理念が浸透しない」
このどれか一つでも当てはまるのであれば、「朝礼」という小さな習慣から変えていくことで、確実に組織の流れを変えられます。朝礼は、会社の未来をつくる“もっとも身近で、もっとも強力な経営施策”です。まずは、今日の朝礼からひとつだけでも改善を始めてみませんか?
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