5S定着事例:A社における意識改革と生産性向上の取り組み

こんにちは。ものづくり支援パートナーズの大音です。
今回は、製造現場での「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」定着に成功した事例をご紹介します。

なお、今回紹介するA社は一品一葉の生産形態ですが、もしリピート性の高い製造現場であれば、5Sによる段取り短縮や在庫削減の効果はさらに大きく現れるでしょう。工程が繰り返される環境ほど、5Sの積み重ねが直接的な利益に結びつきます。


■ 背景:M&A後に直面した現場の課題

A社はマシニングセンタによる部品加工を行うメーカーです。
同業で従業員10名ほどのB社をM&Aで買収しましたが、B社の工場は整理整頓が行き届いておらず、
部品や工具が乱雑に放置され、チョイ置き・直置きが常態化していました。また、社内に在庫がある材料を追加発注するなどの問題も発生していました。
掲示物やカンバンもなく、一目見ただけで「探すムダ」「運搬のムダ」「材料発注のムダ」が発生していることが明らかでした。

B社は加工技術に優れていたものの、一品一様の受注形態のため、効率化やムダ取りの意識が極めて低く、「整理する時間があるなら生産したほうがよい」という考えが根付いていました。


■ 問題意識:切れない斧で木を切る現場

しかし、切れない斧で一生懸命木を切るよりも、刃を研いでから切った方が短時間で多くの木を切れるように、効率的な作業環境を整えることこそが生産性向上の第一歩です。

この「当たり前のようで実行されない常識」が、現場に定着していないことが多いのが実情です。
また、5Sは取り組みやすい反面、「定着」と「継続」が難しく、一度挫折すると「やっても無駄」という社風が残ってしまうリスクもあります。


■ A社の課題:5Sを“やらされる活動”から“自発的活動”へ

A社の社長も、「B社の意識をどう変え、5Sを当たり前にできる組織にするか」で頭を悩ませていました。
そこで、私たちは以下のようなアプローチを提案しました。

  • 営業時間内の毎朝15分を「5Sタイム」として設定
  • 役員を含めた全従業員参加
  • 人事考課に「5Sの理解度・活動状況」を反映
  • 個人目標に「5S実施件数」例えばテプラを貼った枚数、定位置化を行ったなどの件数を設定し、予実を管理
  • グループウェアで実施事項の情報共有
  • 毎朝朝礼で「5S関連書籍」を1日1ページ輪読

A社の社長はこれらをすべて採用したうえで、
自ら率先垂範して毎日5S活動に参加
時間が取れない日は社員退社後の前日夜や社員出社前の早朝に取り組み、実施したことをホワイトボードに記載して共有するなど、「経営者が本気である」という姿勢を全従業員に示し続けました。

やはり、経営者や工場長が率先して活動に参加し、現場の小さな変化にも関心を持ち続けることは、従業員の意識改革に大きく影響します。「トップが本気で取り組む姿勢」は、5S定着の何よりの推進力となります。


■ 実施内容:心理的障壁を考慮した段階的整理

5Sは「整理 → 整頓  → 清潔」と進めるのが理想ですが、特に最初の「整理」でつまずくケースが多く見られます。

高額な材料・在庫・設備を廃棄することは“損切り”となり、心理的抵抗が伴うためです。
B社でも同様に、使っていないものが多くありながら、なかなか廃棄に踏み切れませんでした。

そこで、A社社長は段階的整理のステップを採用しました。

  1. 捨てやすい不要物から処分を開始
  2. 抵抗感の強いものは一時保留
  3. 5Sの効果を体感した後に、自主的な廃棄へ移行

結果として、「不要物がない方が楽に生産できる」ことを現場が実感し、最終的には高額設備の廃棄にも自ら踏み切れるようになりました。


■ 整頓・清潔の徹底:見える化による再乱防止

整理と並行して、整頓・清潔(仕組みづくり)にも注力しました。
具体的には、5S時間を活用して

  • 置き場の明確化(区画線のマーキング)
  • テプラによるラベリング
  • 掲示物によるルールの見える化

を徹底的に実施しました。

5S時間を営業時間中に確保することで、時間がないという言い訳をなくしたのです。
これにより、「モノの定位置化」と「乱れにくい仕組みづくり」が定着しました。


■ 成果:定量・定性両面での改善

5S活動の定着により、以下のような成果が得られました。

<定量的成果>

  • 5S活動開始後一年後に、無駄な材料購入の減少により材料比率が3.5%削減しました。

結果、利益率やキャッシュフローが向上しました。

<定性的成果>

  • 5Sが当たり前に行われる自律的な社風の形成
  • 「探すムダ」「運搬のムダ」の削減による生産性向上
  • 作業スペースの拡大による効率的で安全な作業環境の実現

■ まとめ:5Sは“習慣化”がゴール

5Sは単なる清掃活動ではなく、「生産性向上」への第一歩であり、組織文化の変革活動です。

A社の成功要因は、社長自らが本気で取り組み、従業員が自発的に「良い職場を作ろう」と思える仕組みをつくったことにあります。

また、5Sの本当の価値は「続けること」にあります。最初の数か月で見える成果も大切ですが、毎日の積み重ねによってこそ職場の文化が変わります。A社も、経営層と現場が一体となり、継続的に取り組んだことで真の変化を実現しました。

5Sを通じて“やらされる活動”から“自ら考えて動く活動”へ。これこそが、持続的成長を支える「真の現場力」ではないでしょうか。

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