1.資本経営とは?
人的資本経営とは人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことにより、中長期的な企業価値の向上につなげる経営の在り方を指す言葉です。人的資本経営が注目されるきっかけの1つに「人材版伊藤レポート」があります。人材版伊藤レポートとは、経営戦略や人材戦略の連動によって、持続的な企業価値の向上に向けた人的資本経営のあり方がまとめられ2020年9月に公表されたレポートです。経済産業省のホームページでも公開されておりますのでご興味のある方はご覧ください。
2.人的資本経営が注目されるわけ
伊藤レポートが注目されるきっかけと触れましたが、日本では、2023年3月期決算から上場企業などを対象に人的資本の情報開示が義務化されています。具体的には金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業が対象です。具体的には次のような内容を開示する義務があります。
・人材育成:リーダーシップ、育成、スキル/経験
・エンゲージメント:エンゲージメント
・流動性:採用、維持、サクセッション
・ダイバーシティ:ダイバーシティ、非差別、育児休業
・健康・安全:精神的健康、身体的健康、安全
・労働慣行:労働慣行、児童労働/強制労働、 賃金の公平性、福利厚生、組合との関係
・コンプライアンス:コンプライアンス/倫理
3.中小企業と人的資本経営
開示義務がない中小企業にとっては無縁の話でしょうか?
「そのような事はない」と中小企業の経営者の皆さま、そしてお勤めの皆さまも感じておられるのではないでしょうか?
採用難、キーマンの離職、若手が定着しない等、人のことで悩んだことのない中小企業経営者は多くおられるのではないでしょうか。今回、人的資本経営を推進する事による2つの効果を伝えさせていただきます。
- 採用への効果
まず1つ目は採用での効果です。上記で挙げている人材育成、エンゲージメント、健康、労働慣行などの状況を整え、発信する事は他社への差別化にも繋がり、優秀な人材の確保・定着につながります。
- 市場での効果
2つ目は市場での効果です。昨今ますます企業の社会的責任(CSR)の観点やSDGsでも17の目標で「8.働きがいも経済成長も」でその重要性をうたわれています。人的資本経営に取り組む事は顧客からの信頼や評価にも繋がってきます。また「インターナル・マーケティング」という従業員の満足を高めることで、サービスの質や製品の質を高め、顧客満足度の上昇を図り、それによって企業の利益を生み出すという考え方からも必要と考えます。
4.中小企業が人的資本経営を推進するには
中小企業が人的資本経営を推進するためのポイントは幾つかありますが、今回は3点お伝えいたします。
- 経営者のコミット
1つ目のポイントは「経営者のコミット」です。大企業と違って経営者と従業員の関係性が近いという事から経営者は従業員から一挙手一投足を見られています。経営者自らが従業員と積極的にかかわり、自社のビジョン・ミッションや従業員が目指すべき姿を発信し、従業員に理解してもらうことが、人的資本経営の推進へとつながります。
- 制度との整合性
2つ目のポイントは制度を整える事です。1つ目のポイントで言葉と行動を一致させる事の重要性について触れましたが、行動が成果や評価につながる事もモチベーションを保って継続させるためには必要です。ミッション、ビジョンに則った行動をしている従業員に対しては適切な評価を行うなど、仕組を整える事も重要になります。
- 優先順位の決定
3つ目のポイントは優先順位を決める事です。中小企業は人、資金といった経営資源が限られています。そのような中、従業員を大事にする施策として様々な事を実行したいと考える方は多いでしょう。「研修も充実させたい」「福利厚生も大切にしたい」「残業も減らしたい」など、思いは尽きないと思いますが、人材戦略に沿って施策の優先順位を決める必要があります。
今一度、現在の自社の状況を振り返り、出来るところから始めてみてください。人的資本経営を推進する事は従業員満足が生産性向上、サービスの向上をもたらし、顧客満足に繋がり、経営者の皆さま、従業員の皆さまの幸せに繋がっていくのではないでしょうか。