
みなさん、こんにちは。ものづくり支援パートナーズの山口透です。
中小製造業の多くは、日々の業務に追われ、自社の現状を客観的に把握することが難しい状況にあります。そんな中、株式会社テクノプラス(仮名)は、生産診断システム「HEPTA」を活用して自社の現状を可視化し、効果的な改善活動につなげた好例です。
テクノプラスは、従業員50名ほどの精密部品製造会社です。近年、大手顧客からの納期短縮や品質向上の要求が厳しくなる中、何から手をつければよいか悩んでいました。そんな折、地元の中小企業支援センターにいた関西ものづくり支援パートナーズの一員からHEPTAの存在を知り、試してみることにしました。
HEPTAの特徴は、製造現場の状況を短時間で診断できることです。通常7日間ほどかかる現場分析が、わずか10分程度で完了します。テクノプラスの生産管理部長である佐藤氏(仮名)は、「最初は半信半疑でしたが、チェックリストに回答していくだけで、自社の課題が明確になっていくのに驚きました」と語ります。
診断結果は、「5S」「見える化」「流れ化」「情報化」「品質」「資材購買」「現場活性化」の7項目についてレーダーチャートで表示されました。テクノプラスの場合、「品質」と「現場活性化」のスコアは比較的高かったものの、「5S」と「見える化」のスコアが著しく低いことが判明しました。
さらに、テキスト分析結果では、「作業場の整理整頓が不十分」「標準作業手順の不在」「視覚的な管理ツールの未活用」といった具体的な問題点が指摘されました。これらの結果を経営陣や現場リーダーと共有し、議論を重ねた結果、まずは「5S」から取り組むことを決定しました。
「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は、製造業の基本中の基本です。当初は工場長の指示の元、5Sも進めていました。しかし、忙しさにかまけて疎かになっていました」と佐藤氏は反省を込めて語ります。改善活動のキックオフとして、全社員参加の5S研修を実施。その後、部署ごとに小規模な5Sチームを結成し、具体的な改善活動を開始しました。
最初の1ヶ月は、不要な物の廃棄と必要なモノの整理に集中しました。驚くべきことに、長年使われていない治具や、今は廃盤で使っていない部品が見つかりました。これらを整理するだけでも、作業スペースが広がり、動線も改善されました。
次の段階では、「整頓」と「清掃」に力を入れました。工具や部品の定位置を決め、ラベリングを徹底。また、毎日の清掃時間を設定し、5分間の一斉清掃を習慣化しました。これらの活動を通じて、従業員の意識も徐々に変化していきました。
「最初は面倒くさがっていた社員も、作業効率が上がり、探し物の時間が減ったことを実感し始めると、積極的に改善案を出すようになりました」と佐藤氏は喜びを語ります。
3ヶ月後、再度HEPTAで診断を行ったところ、「5S」のスコアが向上。それに伴い、「見える化」のスコアも少し改善されました。さらに、予想外の効果として、「品質」と「現場活性化」のスコアも上昇していたのです。
この結果に手応えを感じたテクノプラスは、次のステップとして「見える化」に取り組むことを決定。既存のシステムからデータを取得して生産状況や品質データをリアルタイムで表示する見える化ボードの導入や、問題発生時の「アンドン」システムの構築などを計画しています。
佐藤氏は「HEPTAのおかげで、どこから手をつければよいかが明確になりました。5Sという基本に立ち返ったことで、社員の意識も変わり、次の改善へのモチベーションが高まっています」と語ります。
テクノプラスの事例は、HEPTAという客観的な診断ツールを活用し、その結果に基づいて具体的な改善活動を進めることの重要性を示しています。特に、「5S」という基本的な活動から着手したことで、全社員が参加しやすく、目に見える成果を得られたことが成功の鍵となりました。
中小製造業にとって、自社の現状を正確に把握し、効果的な改善策を立案することは容易ではありません。しかし、HEPTAのようなツールを活用し、データに基づいた改善活動を進めることで、着実な成長を遂げることができるのです。テクノプラスの挑戦は、まだ始まったばかり。今後の更なる飛躍が期待されます。